電子化を巡る法制度は目下大きく変容しつつあり,ある時点で課題として指摘された論点が短期間のうちに立法的に解決される場合も多くみられる。
2000年を見ると,すでに述べたように電子署名や認証に関する法律が制定されたほか,「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(IT書面一括法)や「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)ができ,既存の50本の法律の書面交付義務規定が電子化に対応して改められたり,政府にIT戦略本部が設置された(ここでは日本を5年以内に世界最先端のIT国家とするための「e-Japan戦略」が2001年から始動している)。
なお,電子化とは直接関係ないが,電子商取引にも適用される消費者保護法制として消費者契約法と「金融商品の販売等に関する法律」も制定された。
2001年には,「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」(電子消費者契約民法特例法)が成立し,@電子消費者契約における錯誤無効の特例として事業者による重過失反証を制限する(3条)とともに,A電子契約の承諾通知(契約の成立時期)を発信主義(民526条1項)ではなく到達主義へと転換した(4条)。
さらに,「訪問販売等に関する法律」を改正して「特定商取引に関する法律」(特定商取引法)を制定して消費者保護規制を強化し,内職・モニター商法・マルチ商法の規制に加えて,インターネット通販やカードレス取引といった電子商取引についてもわかりやすい画面表示を事業者に義務づけることなどを規定している。
一方,ドメイン・ネームの不正取得・使用等から商標権者等を守るため,不正競争防止法の一部を改正して被害者に差止請求権・損害賠償請求権を認めた。
また,同年秋の商法改正により,@定款や貸借対照表などの会社関係書類を電子データによって作成できるようになったほか,A株主総会の招集通知等をインターネット等で行えるようになり,B株主総会でも電子投票も可能になり,C貸借対照表等をインターネットを利用して公開することができるようになった。
加えて,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダー責任法)も同年秋に成立し,ウェブページ等に違法情報が発信されて被害を被る者が出た場合(例:掲示板に名誉を殿損したりプライバシーを侵害する情報や著作権を侵害する情報等が掲載される場合)に,サーバーの管理・運営者(プロバイダー)が関係情報を削除するなどしても損害賠償責任を負わず(3条),被害者はプロバイダーに発信者情報の開示を請求できる(4条)こととなった(2003年3月31日には東京地裁がインターネット掲示板運営者のヤフーに対して,投稿者が使ったコンピュータを識別するIPアドレスと送信日時の開示を命じる判決を出し,開示請求を巡る初の判決として注目された)。
さらに2002年になると,スパムメール対策として特定商取引法の施行規則を改正する経済産業省令が出され,商業広告メールを送る事業者は必ずメールアドレスを表示し,題名に「1広告!」(2002年の特定商取引法自体の改正に伴い,「未承諾広告※」との表示に変更)と表記することを義務づけられた。
また,特定商取引法が改正され,消費者が電子メールによる商業広告の受取を希望しない旨の連絡方法を事業者の表示義務に加え,そうした連絡を受けた事業者の商業広告の再送信を禁じ,これに反した場合は主務大臣による指示や業務停止命令の対象となった(指示等に違反すると刑事罰が科される。
さらに,第5章で検討したように証券決済システム改革法も制定されるなど,この分野の立法化の動きは大変活発である)。
その他,今後も電子公告制度の導入に関する商法改正,知的財産権の適正な保護・利用に関する法整備,ADR基本法の制定等が予定されており,最新の情報は政府のIT戦略本部のホームページ(http://www・kanteigojp/jp/it/)を参照して確認されたい。
電子化に対応するための法整備については,@立法によって電子化に必要な新しいルールを定めたり(電子署名法など),電子化の妨げとなる既存のルールを改めたり(IT書面一括法など)する立法アプローチと,A現行法を電子化に相応しいように法解釈する解釈アプローチが想定できる。
前者については,まだ立法化すべき部分が多く,後者についても今後技術の進歩に応じたさまざまな議論を積み重ねていく必要がある。
電子マネーに関しては,その取引法上の問題について実体法小委員会報告書が解釈アプローチで検討を加えているほか,電子マネー発行体の適格性や取引の信頼性を確保するための規制法上の問題については大蔵省(現財務省)の「電子マネー及び電子決済の環境整備に向けた懇談会報告書」(1998年6月,以下懇談会報告書)が扱っている。
そこで,それらの内容に基づいて取引法,規制法の双方について説明しよう。
先に掲げた実体法小委員会報告書は,電子マネーの取引法上の性質を類型化した上で,それぞれの類型に応じて電子マネーの移転と対抗要件,電子マネーに対する強制執行,その他の問題について考察している。
電子マネーにはさまざまなタイプが存在するが,構造上最も基本的な区別はすでに説明した「ICカード型」電子マネーか「ネットワーク型」電子マネーかという点,すなわち物理的な媒体が存在するか否かという点にある。
この点に着目すると,法的にはICカードという物理的媒体に着目して「証券」的なものと考えるか,「証券」に相当する物理的媒体がないため,ネットワークにおける「振込指図」的なものと考えるかという相違が出てくる。
また,ICカード型電子マネーでは,電子マネーの金銭的な価値は電子マネーのデータ自体にあると見て一種の財産権として捉えられやすいのに対し,ネットワーク型電子マネーでは,電子マネー発行の対価として得た資金やその換金請求権を基礎として債権的に構成するほうが馴染みやすい。
個々のケースにおいて法的にどう構成するかは電子マネーのより詳しい類型ごとに考察する必要があるが,まずは大まかな分類を考える。
電子マネー自体の価値を基本として構成するアプローチを採る場合,証券が価値そのものを有する「金券」,債権を表章する「有価証券」,あるいは無記名債権という構成のほか,「電子マネーを価値そのものとみて,その価値の移転により債務が消滅する」という構成や「電子マネーは発行者と契約を締結した者との間でのみ流通すれば足りる以上,その法的性質にかかわらず当事者の契約に基づき電子マネーという情報の移転により債務が消滅する」という新たな構成も示されている。
また,発行者が発行の対価として得た資金または換金請求権とみるアプローチを採る場合,債権譲渡(または債務引受)や支払指図(振込における振込通知)という構成が存在する。
このように電子マネーの法的性質は電子マネーの類型に応じてさまざまな構成が考えられるため,どのように法律構成するかによって解決すべき問題も異なってくる。
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